淡水産のカニを加熱なしで食べるという伝統的な食習慣を持つ国は多く,それらの国々を中心に肺吸虫症が発生している。肺吸虫症の治療には駆虫薬があり,適切な使用で著効が得られる。しかし本症の臨床像や画像所見は,同じく呼吸器を標的とする肺癌や肺結核と類似する事から,類症鑑別の重要性が常に指摘されてきた。さらに肺吸虫は神経系に侵入する場合があり,その結果,重篤な症状を呈して死に至る症例も報告されている。従って,感染の予防に十分な注意を払うべき寄生虫として,肺吸虫を認識し直す必要がある。本稿では肺吸虫に関して,まず我が国における発生事例を紹介し,次いで本虫の寄生虫学的な事項を述べ,そして病気としての肺吸虫症を概説し,さらに行政の対応について述べる。