アニサキス症は,食品寄生虫症の中でも日本人の食生活の習慣と相まって症例数も多く,現在,年間2000~3000件の人体寄生例の発生が推定されている。ヒトへの感染はアニサキスを保有する海産魚やイカの寿司・刺身を食することによって生じる。
本症の原因となるアニサキスの幼虫については複数種が報告されているが,最も感染例が多いのは,Anisakis simplexである。これまでA. simplexは,形態学的に単一種とみなされていたが,最近の分子生物学の技術を用いた系統分類学の進歩により,同胞種として,A. simplex sensu stricto,A. pegreffiiおよびA. simplex Cの3種に分類できることが分かってきた。さらに,A.simplex s. str.は,魚の筋肉に侵入する率が高く,そのため寿司・刺身を食することによってアニサキス症を引き起こす主要病原虫種であることが明らかとなってきた。本稿では,分子生物学的手法を用いたA. simplexの同胞種レベルでの解析を中心に,アニサキス及びアニサキス症に関する最近の知見を紹介する。