近年,世界中で様々なナノマテリアルが利用されているが,それぞれのナノマテリアルに対する健康影響に関しては完全に明らかになっている訳ではない。本解説では,食物を介したり,直接ヒトに適用されるナノマテリアル(銀ナノ粒子,酸化チタン,シリカ)の生態環境やヒトの健康への影響についての知見を紹介する。ナノマテリアルの生体毒性発現には活性酸素種の産生が関与している。この活性酸素種は,一部のナノマテリアルの有効利用にも関与しており,既にナノマテリアルが日常の製品に数十年間使用されているが,ナノマテリアルが原因となるヒトの健康影響は殆ど報告されていない。また,最近の学術論文において,ナノマテリアルが培養細胞や実験動物に影響を与えることが報告されているが,ヒトの健康影響を予測するための情報が得られる状況には至っていない。そのために,ナノマテリアルの健康影響やそれを予測するための安全性評価法の確立が急務である。