感染と感染症は概念としては明確に区別するべきである。ただし,現実の事例においてはその境界を明確に区別することができない場合も多い。コッホの原則は,デカルト的な還元主義ないしは機械論的自然観に基づく感染症理解ととらえることができ,感染症を科学的に理解する画期的な成果であった。しかし,今日の感染症の多くは,コッホの原則が適用できない場合が多い。今日,感染および感染症は,生態学的な視点および進化的視点から理解する必要がある。すなわち,感染症の原因となることもある微生物とヒトは相互作用しつつ共存する存在である。生物間の相互作用は生物進化の歴史のなかで多様な形で常に存在してきた現象である。重篤な感染症は撲滅すべき対象であるかもしれないが,その原因となる微生物は人間が折り合いを付けながら共存すべ生態系の一員である。また,感染症に対する対処も,生態学的・進化学的立場にたって考えて行く立場も必要である。