国民皆保険制度や医療技術の進歩により,我が国の医療はアクセス,質ともに高い水準にあり,長寿国としても世界第一位である。一方,国民総生産における医療費の割合はOECD諸国に比して高くなく,近年,在院日数の短縮等も奨励されており,病病・病診連携による患者の行き来により,患者と病院は"多対多"の関係にある。これは各種医療機関を含む市中における抗菌薬耐性菌の伝播拡大に関連しており,特に人口高齢化による耐性菌保有患者の増加と連動する重要な課題である。感染対策を担当する部署は各医療機関において整備されてきているが,最適の抗菌薬治療を実践する感染症医が常置されている医療機関は極めて少ない。感染対策は重要であるが,それと同様に個々の患者の感染症診療を実践する感染症医の配備も喫緊の課題である。我が国の感染対策の課題として挙げられる事項は複数あるが,人口の高齢化と感染症医の不足という二つの点は,今後の感染対策,特に抗菌薬耐性菌の抑止を考える上で重要である。