ムギやトウモロコシの植物病原菌として知られる赤かび病菌(Fusarium属)の一部はカビ毒(マイコトキシン)を産生する。カビ毒のような生体外異物を代謝する機構は植物にも存在する。植物体内においてカビ毒は糖を付加することで減毒化され,さらに液胞に輸送される。このようにして生成されたカビ毒の配糖体はマスクドマイコトキシン(masked mycotoxin)とも呼ばれている。マスクドマイコトキシンは分子量や物理化学的性質が元の化合物とは異なるため従来の分析法では検出できないが,生体内に取り込まれると腸内細菌等によって加水分解されてカビ毒を遊離する。このためカビ毒の潜在ハザードとして注目されている。本稿ではマスクドマイコトキシンについて,発見の歴史や最近の研究動向について,筆者らがこれまでに検出した化合物も含めながら紹介する。