近年,カビの同定に分子生物学手法が盛んに使用されるようになってきた。2005年に,筆者らは本誌の基礎講座「カビ検査法」でその分子生物学的手法の具体的な方法を紹介した。基本的な方法は現在もほとんど同じであるが,それから約10年を経て,カビの分類・同定を取り巻く環境は大きく変化した。当時から最も大きく変化した点のひとつはカビ遺伝子の塩基配列データの蓄積量である。もうひとつは形態学的指標,代謝産物の分析,生化学的性状などの従来のカビの分類基準に加えて,いくつかの遺伝子の塩基配列に基づく系統解析が重要な分類基準として使用されるようになったことである。そこで,本稿では特に食品あるいは環境由来カビを対象に遺伝子の塩基配列を用いた同定法について,最新の動向を加えて以前の基礎講座で紹介した方法の改訂版を掲載し解説する。