黄色ブドウ球菌が産生するブドウ球菌エンテロトキシン(SE)は菌体外タンパク毒素であり,食中毒の重要な原因毒素である。ブドウ球菌食中毒は,本菌が食品中で増殖する際に産生するSEにより引き起こされる食品内毒素型食中毒である。SEは極めて耐熱性が高く,通常の加熱ではほとんど分解されない。そのため,食品を汚染している黄色ブドウ球菌が殺菌処理あるいは加熱調理により死滅されても,すでに食品中に産生されているSEは失活せずに食中毒を引き起こすことができる。また,SEは消化分解酵素に対し強い抵抗性を有し,微量でも食中毒を引き起こし得る。本稿では,SEの分子多様性と分子構造の特徴,SEの加熱および消化酵素に対する抵抗性について概説するとともに,本菌による食中毒の予防対策を考えてみた。