耐熱性カビは子嚢胞子などの耐久性組織を形成し75℃で30分の加熱にも生残する真菌のことである。真菌は低pH,低水分活性の条件でも生育できるため,果汁やジャムといった低温殺菌を施した酸性食品の変敗原因となる。耐熱性カビの汚染問題は缶詰製造技術が発明されてから解決されていない重要な課題である。従来の耐熱性カビの検出・同定法は,試料にヒートショックを与え,培養した後に形態観察することによって同定していた。このため操作は煩雑で長期間を要し,検査者の知識と熟練が必要であった。近年,遺伝子を用いた検査法が開発され,加熱することなく特定のDNA配列を使って耐熱性カビを識別できるようになった。これにより原材料や環境の汚染が短時間で判るようになり,製法や配合,製造環境をすばやく改善できるようになった。本稿ではPCR法,DNAアレイ法,DNAチップ法など,最近の耐熱性カビの簡易迅速検査法について説明する。