Eurotium属のカビは,その他のカビに比べ,水分活性値が低い条件でも発生可能な好稠性カビであるが,食品以外の基質における発生を解明するための基礎研究は殆ど見当たらない。そこで,本研究では,合成繊維におけるEurotium属の発育に及ぼす相対湿度(RH)と栄養源(炭素源)有無の影響を調べ,経時的にミクロ形態を観察し,発育過程を解明することを目的とした。すなわち,ポリエステル生地に4種のEurotium属のカビを接種し,RH条件別(RH 75,80,85,90,95および100%)とスクロース添加または未添加の条件で25℃,28日間培養し,肉眼と実体顕微鏡で発育度とミクロ形態を観察した。発育度は,試験胞子液を接種した面積での菌糸発育面積をもとに評価し,ミクロ形態は,菌糸発育,無性胞子および子嚢果形成有無で評価した。その結果,栄養源添加有無によらずRH 95%が最も発育が良好であることが分かった。また,培養期間中,段階的,経時的に様々なミクロ形態を示していき,一定の培養期間後には,RHや栄養源有無の条件によって異なるミクロ形態を示すことが判明した。よって,そうしたミクロ形態の違いを指標とした観察や再現試験は,製品の保管環境の相対湿度,栄養源になる汚れの有無やカビ汚染の発生までに要した期間などを推測する根拠の一つになると考えられた。