基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌の世界的な拡散は大きな問題となっている。ESBL産生菌の保菌は特にイムノコンプロマイズドホストにとっては生命のリスク因子となりうる。ESBL産生菌の現状を明らかにするためには健康な個人(健康人)のESBL産生菌の保菌実態の分子疫学的解析は必要とされている。我々は,2013年6月と2014年6月の間に,同じ199人の健康なベトナム人から,3回,糞便検体を6ヵ月おきに収集し解析を行った。その結果,ベトナムの健康人におけるESBL産生大腸菌の保菌率は3回の検体収集時にいずれも約50%程度であり,290株のESBL産生大腸菌が得られた。PCR法による検討の結果,それらのESBL産生大腸菌ではblaCTX-M-9グループ遺伝子が優勢であることが示された。また,パルスフィールドゲル電気泳動によってESBL産生大腸菌の遺伝学的背景を解析したが3回の検体収集間で同一のPFGEパターンを示すESBL産生大腸菌株は得られなかった。さらに,保菌状態からベトナムの健康人においてはCTX-M型ESBL産生大腸菌の保菌期間はおそらく6ヵ月未満と示された。