医療現場における抗菌薬の不適切な使用だけでなく,家畜(禽)の生産現場が薬剤耐性菌の出現及び拡散に大きく関与すると考えられている。家畜(禽)の生産現場では,治療だけでなく感染症の発症予防や成長促進を目的として抗菌薬が多用されている。中でも,東南アジアは,薬剤耐性菌出現のホットスポットとされる。本稿では,ベトナムの養鶏場を取り上げ,その汚染状況についてまとめた。養鶏場で分離される大腸菌の8割以上が多剤耐性であり,ヒト医療において重要な第3世代セファロスポリン系薬剤やシプロフロキサシン,ゲンタマイシンに耐性を示す菌株が,2〜3割存在した。抗菌薬の使用だけでなく,飼育密度や初生雛の仕入れ先が薬剤耐性菌のリスクファクターとなっていた。また,カンピロバクター属菌やサルモネラ属菌においても,薬剤耐性が高率に認められた。このように,ベトナムの養鶏場においても薬剤耐性菌汚染は,我が国を含む他国と同様に深刻な問題であることが明らかになった。