薬剤耐性(AMR)対策は,国際的に取り組むべき重要な課題となっている。対策を推進していく上で,保健・獣医・農業・環境などの複数のセクターが共通で取り組むワンヘルス・アプローチや研究開発等を実践していくことが重要とされている。日本の医療環境では多剤耐性菌による院内感染等が問題になっているが,食中毒を起こす細菌が薬剤耐性を獲得した場合,食中毒や経口感染症の治療が困難になることが予想される。また食品中に分布する薬剤耐性菌は食を通じてヒトや環境等への拡散が懸念される。本稿では食中毒細菌の中で,黄色ブドウ球菌,サルモネラ,カンピロバクターにおける薬剤感受性の状況,グラム陰性菌で問題となっているESBL産生菌,AmpC産生菌,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE),コリスチン耐性菌について取り上げ,食品,製造環境,従事者などからの検出報告例を中心に食環境における薬剤耐性菌の分布の現状について解説する。