微生物制御において問題となる損傷菌は,端的には生死に関わるほどの,あるいはそれに近い程度の物理的・化学的なストレスによって傷ついた菌と言える。本稿では損傷菌の講座開講にあたって,微生物からさらに視点を拡げ人間も含めた生命体の視点から損傷菌の生死問題を論じた。人間は微生物と共生しつつも有害なものに対しては闘争関係にあるが,生命体としてはともに外圧ストレスによって損傷を受け,条件がよければそれを修復して復活する。人間を対象とした文系立場の生命論・死生論は,生命体全体に拡大された複雑系生命科学や生命システム論の進展によって,理系の立場からのアプローチもありそうである。損傷菌の生死問題を,自然科学的な生命論・死生論的視点から論考し,微生物制御上での捉え方における意義を提示した。