水耕栽培作物による食中毒が世界中で毎年のように発生しており,主要な原因菌として大腸菌O157:H7およびサルモネラが挙げられる。しかもこれら病原菌は,根から作物内部に侵入する場合がある。本研究では,水耕栽培における各種葉菜類への大腸菌の侵入をきたす菌密度(閾値)とそれを左右する諸因子を明らかにするため,非病原性大腸菌KM1株の初発菌密度を種々に変えて水耕液に接種することで,作物の根部に4~7日間曝露した。その結果,レタスでは初発菌密度106 CFU/ml以上で大腸菌が侵入する場合があり,109 CFU/mlでは侵入率100%であった。ホウレンソウでは107と108 CFU/mlで高頻度に侵入し,コマツナでは107 CFU/mlでは侵入せず,108 CFU/mlで侵入した。またコネギでは108 CFU/mlの高い菌密度でも侵入しなかった。このとき,水耕液中に存在する原生動物の捕食作用により,大腸菌密度が激減した。そのため正確な閾値は得られなかったが,大腸菌密度,植物種,および原生動物の捕食圧が大きい影響を与えていることが判明した。