バイオフィルムは,近年微生物制御において問題視されるようになり,その形成機構と制御法について解説した。そのライフサイクルは以下の4つのステージからなる。①界面での細胞付着に始まり,②その表面での増殖集団のマイクロコロニー形成,さらに③細胞密度感知システムや微小環境での生態学的な分化システムが作動し,多くの遺伝子やその産物が関与してバイオフィルム構造が形成されて成熟する。そして,④その一部が離脱分散して移動し,新たな生活の場をほかに求める。最初の付着過程では,線毛が特に重要な働きをする。次の増殖過程では,可逆的付着から不可逆付着に移行して増殖する。そしてマイクロコロニー形成過程では,形質分化が起こり,バイオフィルム形成における「協力」,「特化」,「分業」の3つの役割を果たす。これにはc-di-GMPやクォラムセンシング機構など多様な制御システムが働き,Pseudomonas aeruginosaではキノコ状のバイオフィルムを形成する。そしてさらにバイオフィルムの分散が起こり,内部から生じた新生細胞が外に出て新たな表面を求めて移動する。最後に,この形成・分散機構をもとに開発されているバイオフィルム制御法について解説した。