大腸菌の加熱損傷と修復機構について,著者らのこれまでの成果を中心に最近の知見を交えて解説した。損傷とその修復の実態解明は個々の細胞分子や素子のレベルだけでなく,細胞全体の恒常性維持のためのネットワーク的な制御系と機能分子・組織間の関係性が問題になる。本稿では,①細胞外膜・ペリプラズム,②細胞質膜(内膜),③細胞質タンパク質・酵素,④エネルギー生成系と活性酸素発生,⑤DNA・RNAとリボソーム,⑥ストレス応答系とトレランスの各重要機能分子・組織の損傷と修復について論じ,それらがどのように細胞の生存性に関係するのかについて考察した。これら分子・機能組織レベルでの解析結果を統合的視点から検討することによって,加熱損傷大腸菌の細胞レベルの損傷・回復機構が理解されるだろう。