わが国では,ベロ毒素産生性大腸菌とその他病原大腸菌による食中毒が多発しており,毎年多数の患者が発生している。大腸菌は環境やヒトの腸管内に生息しており,本来ヒトにはほとんど無害であるが,プラスミドの獲得やファージ感染により病原性に関わる遺伝子を獲得した結果,ヒトに重篤な疾患を引き起こす大腸菌が出現している。病原性大腸菌は下痢原性大腸菌と尿路感染や髄膜炎などを起こす腸管外病原性大腸菌に大別されるが,本稿では,食との関わりから下痢原性大腸菌について取りあげる。具体的には,腸管病原性大腸菌(EPEC),腸管毒素原性大腸菌(ETEC),腸管出血性大腸菌(EHEC),腸管侵入性大腸菌(EIEC),腸管凝集性大腸菌(EAEC),分散接着性大腸菌(DAEC)の6種類の大腸菌について,宿主細胞への付着・定着メカニズム,分泌装置,エフェクタータンパク,毒素などの病原性に関わる因子について解説する。