Helicobacter pylori(ピロリ菌)の持続感染は,慢性胃炎,慢性萎縮性胃炎を経て胃がんに進展することが明らかとなっている。ピロリ菌は宿主の胃酸の攻撃を回避して胃粘膜上皮に感染し,様々な病原因子を産生して宿主細胞のシグナル伝達機構に影響を与え,また宿主の免疫機構を回避して持続的に感染する。自然界や生存に不利な環境下では球状(coccoid form)の形態で存在し,生きているが培養できない状態(VNC)となっている。また本菌の培養には特殊な環境が必要で容易に培養できないことから感染経路が明らかとなっていないが,水や食品,医原性,家族内感染が有力とされている。本稿では,ピロリ菌の概要,病原因子,形態変化と病原性について解説する。また胃がん発症には生活習慣,特に食事との関連が深いことから,食環境,特に食品中の本菌の存在や宿主側の要因である食事・栄養との関連についても解説する。