薬剤耐性菌の多くは院内感染によって伝播するため,感染症発生動向調査の薬剤耐性菌感染症患者数推移から,我が国の院内感染対策を評価することができる。我が国の院内感染対策は,人材の育成に加え,診療報酬制度への反映といった行政的な枠組みでの整備が2000年代に大きく進んだ。それらを反映するように,代表的な薬剤耐性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症患者数が2000年代後半から減少した。また,バンコマイシン耐性腸球菌や薬剤耐性アシネトバクターはそれぞれ2000年代および2010年代に世界的に流行し,多くの国で蔓延していったが,我が国ではその広まりを限定的に抑え込んでおり,対策に成功した国の一つといえる。一方,我が国は高齢社会を迎え,医療連携が推進される中で医療提供体制が変化しつつある。大規模医療機関を中心に整備されてきた我が国の院内感染対策であるが,今後は中小規模病院や高齢者施設におけるあり方も重要になると考えられる。