破壊された股関節を人工物に置き換えて疼痛を軽減し可動範囲を拡げて本来の滑らかな歩容を取り戻す画期的な試みは1900年代に入ると盛んにおこなわれるようになった。数々の試行錯誤を繰り返した末に1960年前後には英国でCharnley卿により現行の人工股関節の原型に相当するインプラントが開発され科学誌Lancetに発表された。科学技術の進歩とともに人工股関節の耐久性は飛躍的に向上し30年以上の良好な長期生存率が順次報告されている。しかしながら生体とは異なり免疫能や抵抗力という自己防御能力を有さない人工股関節にとって最大の難点は術後長期間を順調に経過しても悪条件が重なるとしばしば人工股関節周囲の感染を発症することである。これを克服することは更なる臨床成績の向上に直結するので本講座では最新の知見を交えて人工股関節周囲感染の予防・診断・治療について概説する。