本研究では,2020年6月から2021年5月に東京で収集された日本国通貨および,2020年11月に宮城県,東京都,愛知県,大阪府,福岡県で収集された紙幣に付着する微生物について同定を行い,通貨付着菌の菌叢を明らかにした。日本国通貨から175種の微生物が同定され,グラム陽性桿菌79種,グラム陽性球菌31種,グラム陰性桿菌45種,グラム陰性球菌3種,糸状菌13種,酵母様真菌4種であった。単位面積当たりの菌数と微生物種の数は紙幣の方が貨幣より多かった。紙幣から同定された細菌は,Bacillus属細菌とグラム陽性球菌が占め,グラム陰性菌はほとんど検出されなかった。人口密度の高い地域で菌種数および検出菌数が多かった。検出された18種の病原細菌はすべて感性株であったが,消毒薬に抵抗性を持ち多剤耐性菌になり得る細菌が増加していた。これがコロナ禍による一過性のものなのか,今後も注視していく必要があると考えられた。