蚊は,ヒトに危害を及ぼす生物群の中でも,他の追従を許さないほどの脅威をヒトに与えており,特にマラリアやデング熱などの感染症を媒介して年間数十万人の死者を発生させる重要な生物である。マラリアはハマダラカ属の蚊が媒介する。日本国内にもマラリアはかつて存在したが,戦後の駐留米軍と住民による努力によって国内からは駆逐された。デング熱は,これを媒介するネッタイシマカが海外から移入する危険性が温暖化とともに増しており,国内に広く分布するヒトスジシマカも重要な媒介者である。これらの蚊は,ピレスロイドという理想的な殺虫剤で防除可能であるが,ピレスロイドの作用点である電位感受性ナトリウムチャンネルのアミノ酸を構成する塩基にミューテーションを起こして,ノックダウン抵抗性を獲得した蚊が近年増加しており,世界中で問題となっている。ピレスロイドの忌避性を応用した新しい防除法の開発が急務である。