食の安全確保のため,食品腐敗に対してはその原因菌を速やかに同定し,迅速な情報提供と再発防止策を講じる必要がある。MALDI-TOF MSを用いた菌種同定自体は非常に迅速であるが,菌株を分離・培養するため少なくとも2日程度要する。そこで本研究では,コーンクリームにStaphylococcus aureusとEscherichia coliをそれぞれ接種したモデル腐敗食品希釈液から,直接菌種を同定するための前処理方法を検討した。脱脂綿および5 µmフィルターで油分と食品残渣を除去したところ,いずれも食品希釈液の菌濃度が106 CFU/g以上で同定可能であった。腐敗した豚バラ肉を用いて分離・培養した場合の菌種同定結果と直接同定結果を比較したところ,直接同定結果が腐敗食品中の優占菌種を反映していることが示唆された。本前処理方法の汎用性を調べるために,蒸しチキン,茹でたコーン粒,茹で人参,ウインナーと生ちくわのネトを用いて直接同定を行った結果,いずれも直接同定可能であった。