著者は,公的研究機関の食品関連部門の研究員として,微生物制御技術の研究開発に22年間従事した後,研究の場を大学に移した。その間,一貫して食品製造設備・機器の洗浄技術ならびに次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)の作用機序の解明に取り組んできた。特に,NaOCl水溶液の濃度調整や使用方法は現場担当者の経験と実績で決められており,必ずしも科学的根拠に基づくものではなかった。このNaOClに対する担当者の暗黙知を,誰もが有効かつ効率的に使用できる形式知に変換する必要性があった。著者らの研究グループは,洗浄技術の研究を先行して開始し,その後にNaOClの活性因子である次亜塩素酸(HOCl)の界面での作用機序に焦点を当てた研究を行った。そして,両者の研究はやがて「洗浄・殺菌技術」として融合化することになる。さらに,pHを調整したNaOCl水溶液による洗浄・殺菌の対象をモノから室内空間に広げることで,現場で実践可能な有人空間での微生物制御技術の研究へと発展させた。