う蝕・歯周病などの細菌性口腔疾患の発症・増悪には,口腔マイクロバイオーム(OMB)の代謝産物が直接関与するため,その予防にはOMB代謝活性の制御が重要である。OMB代謝の制御物質として,糖アルコール,フッ化物,カテキン等が研究されてきた。近年では,OMBによって食品成分が代謝され,その代謝産物が多様な生物活性を示すことが明らかになりつつある。OMBはエタノールからアセトアルデヒドを産生することで口腔や上部消化管で発がん作用を持つ一方,食物由来の硝酸塩を,抗菌のみならず血圧低下作用を持つ亜硝酸塩へ還元することが明らかとなり,OMBが口腔や全身の健康に貢献する可能性に注目が集まっている。さらに,硝酸塩代謝は細菌の相互作用で制御されることも明らかになってきた。そこで,本稿では,1.OMBを構成する代表細菌の代謝とその調節,2.OMB代謝制御成分の作用機序,3.OMBによる食品成分代謝と代謝産物の作用機序,4.OMBと口腔環境の相互作用について概説する。