ヒトや動物が病気になるように,植物もまた病気による被害を受けている。私たちの食を支える農作物は,植物病原菌,特に真菌によって大きな損失を被っており,一見すると病気がない水田や畑でも,病害虫を防除するための化学農薬なしでは,ほとんど収穫することができない。しかしながら,化学農薬を主体とする従来の防除法は,環境への影響や耐性菌の発生が問題となっており,持続可能な農業生産システムでは生物農薬の利用が期待されている。天敵昆虫や微生物を用いた生物農薬は,化学農薬とくらべて環境への影響が少ないとされる一方,防除効果が病害の発生程度や環境要因に影響を受けやすく不安定であることが知られている。また,安定的な防除効果を得るために必須な作用機作が未解明である場合も多い。そこで,本稿では真菌を用いた「カビを食べるカビ」,「害虫を食べるカビ」,「カビ同士の養分競合」という三者三様の生物防除メカニズムについて紹介する。これらの真菌は単純に病原菌を抑制しているだけではなく,植物との複雑な相互作用を通じて,それぞれ全く異なる作用機作を示す。